基礎研究を臨床に渡すには時間がかかります

 生きとし生ける行為にはリスクが常に存在することを、私たちはもっと正直に伝えなくてはならないでしょう。iPS細胞もここまで過剰に祭り上げると、期待だけが一方的に膨らみ、ねばり強く長期の研究が必要な研究開発の実態と乖離したイメージが定着しかねません。

 「まだiPS細胞は役に立たないのか」

 こうした短兵急な過剰な期待は、本当のイノベーションには百害あって一利なし。昨年の11月にiPS細胞ブームが起こるや、山中教授のメールアドレスに国民からすぐに使いたいという要望が殺到、通信困難になるという情況が実際生じています。オートリプライで、まだまだ患者さんのお役に立てるまでにはiPS細胞の基礎研究が必要ですと、山中教授が訴えざるを得なかったのは、既に国民の期待が危険水域に達している兆しだと思います。

 我慢強い支援を国民から期待するなら、現状は国民の短兵急な期待とは遠いところにあることを、しかも、希望を失わせずに情報を伝えるという綱渡りをしなくてはなりません。ふーふっと国民の期待過剰を冷やし、正気を取り戻していただき、尚かつ、でもiPS細胞には期待したいという冷静なねばり強い期待に変えなくてはならないのです。

こ、これは・・・山中先生は本当に大変だ。マウスでの基礎研究が成功してまだ1年ぐらいしか経ってないのに、もう人での臨床応用を期待するとは。生まれたばかりの赤ん坊の親に「まだツール・ド・フランスに出てないのか」と聞くより、ひどい。「すぐ使いたい」と要望を出す人たちの中には、本当に明日をも知れぬ容態の患者さんもいるんでしょうけれど、それ以外の人たちにはもうちょっと長い目で基礎研究を見守る気長さを持って欲しいです。