「穢れ」を集落に持ち込んだ犯人捜し

今回の新型インフルエンザ騒ぎは日本の「穢れ」文化だと書いたのですが、それを裏づけするような記事を読みました。題材はGWまっただなかに感染疑い症例が出た高校なんですが・・・そう、新型じゃない会見で校長が涙ぐんでたところです。あの涙を見て「自分の学校の対面を気にしてベソかくぐらいだったら、季節性インフルエンザでまだ苦しんでる自校生を気遣うコメントぐらい口にしろよ」と思っていたのですが、この記事を読むとそれどころじゃなかったのがよくわかりました。
“社会の暗部”が噴出/横浜 高校生インフルの疑い (続きを読むに全文引用)
いや、これはヒドいよ。校長は「厚労省の発表は校名を伏せていたのに何故バレたの?」なんて悠長なことを思ってるそうですが、そんなのはウェブ検索で1時間も探せば分かりますって。だからこそ、村八分を恐れる企業や組織はマスク着用を義務づけざるを得ないし、右に倣えで街中がマスクだらけになったんですね。あの異様な風景をヘルメット登下校風景にリンクし、マスク・ヘルメットを「アリバイ」と称したコラムは秀逸だと思いました。国内初症例を出しそうになった高校は、アリバイがないゆえに吊るし上げをくらった、と。21世紀の先進国で起こった事だと信じたくないけれど、でも「穢れ」を持ち込んだ犯人が村八分にされるのは、日本の伝統文化の避けがたい一面なのかもしれません。

 「横浜市内の高校生が国内初の新型インフルエンザ感染疑い」。今月一日未明、厚生労働省が緊急会見で明らかにした。「疑い」が晴れたのは、十六時間後。その間、学校は「パニック」に見舞われた。あれから一カ月。生徒を思い、安堵(あんど)の涙を流した校長の胸にはしかし、言い得ぬ恐れが深く沈んだままだ。あの日、目の当たりにしたのは、すぐそこに潜む社会の暗部-。
 
■犯人捜し

 校長は、いまも不思議に思っていることがある。

 「厚労省の発表は校名を伏せていた。それがなぜ広まったのか」

 舛添要一厚労相が会見場に姿を見せたのは午前一時三十五分。その二十分前、インターネットの匿名掲示板では、すでに”犯人捜し”が始まっていた。

 「横浜の私立高校」「四月十日から二十五日にカナダへ修学旅行」

 テレビの速報の断片的な情報を基に、書き込みが重ねられた。「日程で特定できそうだな」。そして二百二十五件目。「この時期カナダは○○○○(学校名)だろ」。会見が始まる五分前のことだった。

 「その十分後です。報道機関から(校長の)自宅に電話がかかってきた。それからほぼ十分おきに三、四件。私の電話番号まで、どこで調べたのでしょうか」

■パニック

 校長がタクシーを飛ばして学校に駆け付けると、そこにはすでに報道陣約四十人が詰め掛けていた。アンテナを立てた中継車、上空にはヘリコプター。駆け付ける教員を、待ち構えたカメラが追った。

 「まさにパニックだった」

 明けて朝。学校周辺の薬局からマスクが消えた。「生徒がどの交通機関を使っていたか教えろ。うつされていたらどうするんだ」。電話口で声を荒らげる、近隣に住むという匿名の男性。

 「業者が調べたところ、学校のホームページに一時間で千百三十万件のアクセスが殺到し、パンクしていた。二百万人がつながらない状態だったそうです」

 模擬試験に申し込んだ生徒について、受験業者から「外出自粛なら受けに来ませんよね。代金は返しますから」と、念押しするような連絡が入った。

■抗  議

 「教員によると、他校の部活動の顧問から『大会でおたくと対戦することになったら、うちは棄権する』と言われたそうです」

 暗に学校を非難する圧力が、教育関係者からもかけられた。

 生徒の「疑い」は晴れたが、同様に北米研修に参加した残りの五百五十三人の健康に不安があるとして、休校が決まった。問題は部活動だった。大会に出られない三年生は、「最後の試合」を迎えることなく引退することになる。

 「一部の生徒は泣きながら校長室に直談判にやってきた。保護者もです。つらかったが、周囲の状況を考えても(出場という)選択の余地はなかった」

 十二日、校長はホームページにメッセージを載せた。「声を大きくして訴えたい。すべての生徒、ご家族、先生方、学校そのものが被害者だったことを」

 疑いの段階で詳細を公表した厚労省横浜市、過熱した報道、ネットを介してパニックを増幅させた社会への、ささやかな抗議だった。

■不  安

 教諭によると、当該の生徒は「明るい性格。もう忘れたかのように振る舞っている」。心配されたいじめなども報告されていないという。

 新型インフルエンザは弱毒性と分かり、事態は沈静化しつつある。しかし-。

 「七月に米国、カナダの高校生を生徒の家庭でホームステイさせることになっている。どれだけ引き受けてくれるのか」

 保護者には予定通り実施する通知を出した。校長はまだ、どんな反応が返ってくるのか測りかねている。