氷河期世代に必要なのはメンター

本コラム番外編でおなじみの新人ナカムラが、配属から1ヵ月目ぐらいのときにこんなことを言いました。当時、ナカムラは若手向け学習ツールの同行営業を始めたところでした。

「なんだか私、断られるために企業を訪問している気がして…。どうすれば先輩たちのようにうまく話せるようになるんでしょうか?」

 ナカムラは社会人になって最初のカベにぶち当たったわけです。
「それにさ、先輩たちは経験を積み重ねてスキルを身につけてきたんだぜ。ナカムラがすぐに同じようにできるわけないじゃん」

 それに対して、ナカムラはなかなか納得できないようでした。

 私は、ここにいまどきの若手の「成長感」が集約されていると感じました。つまり、すぐにでも成長したいし、かつ成長できるとも思っている。でも当然ながら現実にはそううまくはいかないので、カベを感じて悩んでしまう

一足飛びに成長したいんじゃなくて、氷河期世代は悲観的で背水の陣感が強いと思います。電話を取るために働いてるわけじゃないんですから、電話の取り方がうまくなったって褒められても「別に?」と思うだけでしょう。逆に氷河期以前世代の人たちは電話の取り方を褒められたぐらいで「よ〜っし、頑張っちゃうぞ」と思えたんですか?だとしたらオメデタすぎ。
記事の後半にナカムラさんの後日談が載ってたんですが、それには同意できる部分が多かったです。就職したばかりで身近な見本・目標になる先輩がいなかったのは、少なくても自分にとっては大きなマイナス点でした。バブルを経験した人たちは意識的にも年齢的にも遠すぎたし、歳が近い人たちは残業でフラフラになってる正社員か、一線ひいた感じの派遣社員か。どのタイプも「2〜3年経ったらああいう風になれるといいな」って思える先輩がいたら、俺だって仕事を辞めずに済んだのかもしれません。それは院生してる居間でも同じ事が言えます。スーパーマンみたいに論文書きまくってる天才か、ポスドクの次の就職先が見つからず手詰まってる普通研究者しか身の周りにいないと不安で仕方ないです。メンターが切実に欲しい。

 ナカムラがどのようにカベを超えて、いまは自分の成長についてどう感じているのか。あらためて聞いてみました。

「どうすれば先輩たちのようにうまく話せるようになるんでしょうか…って、私こんなこと言いましたっけ?」

 のっけからボケをかまします。この天然ぶりがいいところ。あんまりクヨクヨしないタイプのようです。

「今思えば、同期や歳の近い先輩がいれば、違ったかもしれません。人材開発事業部は、先輩のみなさんがけっこう年上ですから、失敗して怒られる人とかも見たことがなくて…」

 これは多くの職場で当てはまることではないでしょうか。バブル後の長い期間、採用凍結や採用抑制で、30代が極端に少ない会社は多いはず。若手が気軽に相談できる先輩が、構造的に少ないということです。

 ついでに聞いてみました。

「最初のころは、“早く成長しなくては”と焦っていたよね? 他社の例をみても、そういう若手がすごく多いと思うんだけど、どうして成長を急ぐんだろう?」

「私たちの世代は、世の中が良くなるとか、経済が成長し続けるとはまったく思っていないんです」

 と、ナカムラは答えます。

「物心ついたときから自殺者が増えているとか、オウムとか、大震災とか、暗いことばかりでした。まわりの友人もそうですが、会社に入っても50歳ぐらいになったらリストラされるかもしれない、と思っていて、とにかく自分の能力を高めなければダメだという意識が強いんです」

 私は、ちょっと驚きました。「バブル崩壊後のリストラ全盛期にものごころがついた彼(女)らは、会社に骨がらみで依存することのリスクをわかっています」と前で述べましたが、あらためて世代間の意識の違いを、とても強い表現をもってハッキリと突きつけられた思いがしたのです。