秩序がないと安心できない日本人

隈 でも、秩序がないと社会が安心できないということになっています。

養老 それ、無意識なところが怖いんですよ。たばこだってそうでしょう。健康に悪いと言うけれど、そんなこと、理屈になっていないって。だってあの注意書き。「喫煙は」というところを「マクドナルドの食品は」に変えたって同じだよ。あなたの健康的なものを悪化させる危険性が高い、ひいては糖尿病、痛風の危険性および心臓血管障害が起こる、と書かなきゃいけないだろうが(笑)。

――牛のステーキとか、まぐろのトロとかにも書いてあったりして。

隈 あなたの健康を害するって、言われてみれば全部当てはまりそうですよね。

養老 食い物は食べ過ぎたら、みんなそうです。そういうことを大まじめで言っているから、本当に大事なことが通じなくなっちゃうんです。僕がこう言ったら、言っていること自体が不謹慎だ、って怒りの声が来るしね。これって戦時中にそっくりだよ。

――皮肉な話ですが、それこそ養老先生がおっしゃった通り、ガソリンの値段が上がったら渋滞が減ったといいますね。

養老 そうだよ。だから規制なんかいらないんです。東京のガソリンの値段を高くすればいい。何かの現象をコントロールしたければ、そうやって経験的に覚えていってやればいいことでしょう。なのに、この国のシステムは、ものすごく硬直化しているわけ。

「ちょっとでも悪いものは食べものに入っていて欲しくない」って言う人を思い出してしまった・・・ 御年70を越えた養老先生に「戦時中にそっくり」と言われてしまうと、あぁやっぱりと暗い気持ちになってしまいます。何だろうな、昨今の日本社会の閉塞的な糾弾体質は。政治家、企業家、有名人の失言を見つけては寄ってたかって責め続ける風習は、健全とは思えないです。いや、それだけヒドイ失言ばっかだってのはわかってますがね。どうしたらこの負の連鎖から抜け出せるのか、どうやってガス抜きできるのか。