これこそ化学的好奇心の粋

当研究科の動物学教室には、暗黒ショウジョウバエというのがいる。これは、この教室にいた故森主一教授が、長期暗黒の動物に与える影響を調べようと、恒常暗黒下でショウジョウバエを継代飼育するもので、1954年に開始した。

この系統をスタートして20年ほど経った1974年3月、「君、手伝ってくれないか」と頼まれた私は、断ることが苦手なことから何となく引き受け、それ以来ずっと面倒をみることとなった。数年前、私もぼちぼち定年なので、「これを何とかせねば」と、学内外の教員や院生にそれとなく打診してみたが、前向きの感触は得られなかった。(中略)
幸い、グローバルCOEの理解で、当面は何とか継続が可能となった。このハエは、現在1346世代というから、人間の1世代を25年とするなら、数万年前に洞窟に入り込んだまま一度も外を見ずに過ごしてきたクロマニョン人に相当する。彼らの視覚はどうなっているだろう。

想像するだけでワクワクします。残念ながら貴研究室の所属ではないし、もし所属学生だったとしてもテニュアじゃないので数年しかお手伝いできませんが。82年間続いてる「ピッチドロップ実験」といい、この暗黒ショウジョウバエといい、科学研究って本来こういった先の長いものの方が多いのでは?昨今の5年プロジェクト制の副作用で、短期的将来に確実に成果の上がる研究しか認められなくなっているのは本当に悲しいことです。
そういえば学部時代の恩師*1が、やっぱりありとあらゆるショウジョウバエの変異系を30年以上メンテしてました。20世紀末の異常気象で3月終わりに20℃台後半のポカポカ陽気があり、研究棟のセントラルヒーティングが4月まで暖房オンリーになってたため、全培養系がサウナ状態で死滅。失意のうちに定年を迎えられたのは100%事実です。先生・・・その後お元気だろうか。

*1:口癖が"Mother nature loves variety." ご自分の全キャリアを後進の教育にあてられた偉大な指導者