君の名は

 実は、吉崎准教授が借り腹養殖の研究を始めた当初、精原幹細胞を使うことは想定していなかった。注目していたのは、精原幹細胞や卵原細胞のさらに前段階に当たる「始原生殖細胞」の移植だった。
貴重な始原生殖細胞を無駄にすることはできない。だが、吉崎准教授の指導を受けて作業に携わる学生の中に、不器用な人がいた。移植の腕が上達するまで始原生殖細胞を扱わせず、白子から取り出した液体をヤマメの腹に注入する練習を繰り返すよう指示した。(中略)

 この学生は練習済みのヤマメを処分せず、こっそり育てていた。成魚がどうなったのかを念のために調べたところ、ニジマス精子ばかりか、卵子を持つものが発見されたわけだ。吉崎准教授は「学生が自主的にヤマメを育て、観察してくれたおかげで、大きな研究成果が上がった」と振り返る。

マグロの養殖に成功したら億万長者、と言われてますが、それが現実に近づいています。数々の技術的困難の1つを乗り越えたのが東京海洋大学の吉崎悟朗准教授のグループです。クロマグロ精子卵子を産ませるのに成功したそうですが、その突破口を作り出したのが「実験手技は不器用だけど、練習済みのヤマメを根気強く育て観察した」学生であることは間違いありません。でもねぇ、その学生の名前はググっても出てこないんですよねぇ。言うなれば敵の大将の首を落とした兵卒なんだから、領地といわずとも論文の1つでも出てないかと思ったんですが。
そういえば去年のノーベル化学賞受賞者の下村先生も、実験溶液を流しに捨てたら光ったのがGFR発見の突破口でしたっけ。研究は、どこにヒントが転がってるか本当にわからないものです。そのGFPタンパク質の遺伝子をつかまえてその配列やアミノ酸配列を決定したDouglas Prasher博士は研究資金難からバスの運転手をしてるとか。なんというか・・・地道にヤマメを育てた東京海洋大学の学生といい、Prasher博士といい、研究成果を挙げても正当な評価をもらえるかは運次第なのがよぉくわかります。わかりすぎて涙が止まらん。