数学、そして学問の力

 実は今,月1回ほどのペースで企業にうかがって「人間ソルバー」,つまり問題解決屋みたいなことをボランティア的にやっています。もう10年くらいになるかな。いろいろなメーカーの開発現場のトップが,実際に困っていることをざっくばらんに私に説明してくれて,その場で問題を数学に落とし込んで解き,「こんなふうにしたらどうですか」ってアドバイスする。(中略)
個々の内容は秘密なのであまり言えませんが,例えば,高温になる窯の中の温度を精密に測りたいとか,亀裂の発生を防ぎたいとか,機械の振動が何をやっても収まらないとか,実にいろんな問題がある。そうそう,インクジェット・プリンタのヘッドに付けたインク供給用のチューブが暴れちゃって開発が先に進まないという問題もありました。2000万円もするシミュレーション・ソフトで解析しても実験結果と全く合わず,対策が立てられない。

 大抵,こんなふうに開発現場がさじを投げた状態になってから私に話が回ってきます。私も負けてられません。「よし。じゃ,やりましょう」って数学で解いたら,実験結果とぴったり合った。あっちは2000万円,こっちはタダですけど(笑)。それで理論に沿ってチューブの取り付け角などを調整し,無事に製品化にこぎ着けたそうです。 (中略)
。例えば環境問題のように,あらゆるところで問題はどんどん複合化・複雑化している。一つの分野の専門家だけじゃ絶対に解けない。それなのに今,大学は専門分野をさらに細々と狭めていき,与えられた細切れの問題を解ける人ばっかり養っている。「そんなことやって楽しいのか。そうじゃないだろう」というのをちょっとね,教えたいんですよ,大学で。

 うちの研究室では毎週1回,火曜日にゼミをやっているんですが,外部から講師を必ず呼んでいます。分野を問わず。あるときは看護師さんに,老人介護問題について話してもらう。床擦れの写真に全員びっくり。ほかにも,広告代理店にいる友人にマーケティング理論を話してもらったり,お坊さんに語ってもらったり。航空工学と何の関係があるのかっていうくらいですが,これが大事なんです。全然違うことをぐちゃぐちゃにやらせて頭の中をかき回す。

長い引用になってしまいましたが、本当は全文引用したいぐらいでした。2000万円のシミュレーションソフトでも突き止められない事象を数学で解決できるなんて、「人間ソルバー」は格好いいですね。でも目指すところは、細分化された専門バカじゃなくて多角的な問題を解ける人間。学問かくあるべし、と思うんですが、少なくとも日本の大学に求められているのは、企業向け「即戦力」(コミュ力重視)・・・すごい乖離だ(涙)