「バトンゾーン」


共同研究のポイント
 - アナフィラキシーショックを回避しながら高い有効性を持つスギ花粉症ワクチンの開発
 - スギ花粉症ワクチンの開発・治験・承認申請を最短にする基盤を構築
 独立行政法人理化学研究所(本所:埼玉県、理事長:野依良治、以下「理研」)と鳥居薬品株式会社(本社:東京都、社長:松尾紀彦、以下「鳥居薬品」)は、理研が開発した“安全性・有効性に優れた特性を有するスギ花粉症ワクチンモデル”を、国民病とも言われているスギ花粉症※1への有効な治療薬として開発するための共同研究に着手することとしました。
 両者は基盤的研究を効果的に技術移転する「橋渡し(バトンゾーン※2)基盤」を構築するだけでなく、上市後に蓄積される情報をもとに、副作用などの薬剤評価までを視野に入れた共同研究を行う仕組みである新たな「バトンゾーン」を構築しました。(中略)

理研 野依理事長のコメント
 医薬品の開発においては、基礎研究から上市に到るまで十数年という長い時間がかかります。創薬の実現にはさまざまな知識や技術の橋渡しが不可欠です。私たちは、理研がもつ基礎研究の成果を陸上リレー競技のバトンに喩え、それを次の走者である産業、医療機関、学界などに渡す「バトンゾーン」という仕組みを唱えてきました。バトンは止まって受け渡すものではありません。両者の並走ゾーンが必要です。今回、スギ花粉症ワクチンの開発にあたり、「理研鳥居薬品連携研究室」を開設し、鳥居薬品と上市後も視野に入れた長期にわたる共同研究を進めることとなりました。スギ花粉症ワクチンを皆さんの手に届けるまで、作用機序、薬理作用、ヒトへの作用・安全性・有効性など解明すべき点が残されています。理研のもつ創薬に関係する多くの人材や研究基盤などを思う存分にご活用いただき、社会に貢献するという目標を一日でも、一年でもはやく達成したいと考えています。
<補足説明>
※1 国民病とも言われているスギ花粉症
  日本において花粉症を有する人の数は、正確なところは分かっていないが、全国的な調査としては、全国の耳鼻咽喉科医とその家族を対象とした2008年(1〜4月)の鼻アレルギーの全国疫学調査において、花粉症を有する者が29.8%であったとの報告がある(出典:環境省「花粉症環境保健マニュアル2009年2月改定版」)。
※2 バトンゾーン
  理研が提唱する技術移転のモデルで、理研の研究者と企業の研究者・技術者という異なる経験を持つもの同士が緊密に連携し、一定期間、同じ方向に全力で走りながら、技術移転・知の融合を行う仕組みのこと。従来の短期技術移転(リニアモデル)では困難であった「暗黙知」「ノウハウ」といった重要な部分も、交流し併走することにより効果的に移転する考え方(パラレルモデル)。

理研免疫・アレルギーセンターの知識と研究力が、市販薬の開発に直接関わることになりました。鳥居薬品理化学研究所が共同でスギ花粉症ワクチンを開発するそうです。「上市後に蓄積される情報をもとに、副作用などの薬剤評価までを視野に入れた共同研究を行う仕組み」ってことは、市販後調査のデータ解析まで理研が携わるってこと?まぁアレルギー疾患ワクチンの副作用ってことは、それ自体が免疫・アレルギー研究の一分野になり得ますから、一石二鳥なのかもしれません。
しかし理研の野依理事長が言及した「バトンゾーン」構想は面白いです。今までも「基礎研究から臨床研究へ」とか「トランスレーショナル・リサーチ」とか言われてましたが、実際に基礎研究から企業へ研究結果が渡され商品開発されるには、論文に載っているデータより「一定期間、同じ方向に全力で走りながら、技術移転・知の融合を行う仕組み」が必要なのは容易に想像できます。基礎研究は未知の知見を手探りで解明する反作用として、言葉では説明しきれない暗黙知が無数にありそうです。それをバトンゾーンで企業研究者に橋渡しできれば、企業開発側の時間・労力の削減ができるでしょう。
理化学研究所事業仕分けで予算削減のターゲットにされてましたが、これから基礎研究は更に予算確保に困窮すると思います。そんなときに、この「バトンゾーン」のように企業側と連携を強めていくのは、前向きで素晴らしい姿勢ではないでしょうか。