日本学術会議の6提言


さて、第一次の予算仕分けによって危機感を抱いたアカデミズムが、メールによる文科省へのパブコメで反旗を翻したことに続き、日本学術会議が明らかに仕分け対抗策を打ち出してきました。カミオカンデのような大型施設計画に加えて、バイオのゲノムデータベースなどの大規模研究(大きなハードを必ずしも必要としないが、大規模なチームを長期間にわたって運営する科学研究)を取り上げ、以下の6つの提言を行っています。皆さんも是非とも、日本学術会議のホームページに詳細な報告書と、今後我が国が取り上げるべき、科学プロジェクトに関する資料がありますので、チェックしていただきたい。科学を志す皆さんにとって決して無視してはならない情報です。

 日本学術会議の具体的な提言は以下の通りです。

提言1 学術の大型計画のマスタープラン策定と科学的評価に基づく推進策の構築
提言2 従来の「大型施設計画」に加えての「大規模研究計画」の確立と推進
提言3 大型計画と基盤的学術研究、およびボトムアップ的な基礎科学の大型計画と トップダウン的な国策的大型計画の、バランスの良い資源投資と協力的かつ総合的 推進による我が国の学術の強化
提言4 大型計画の政策策定プロセスにおいて、科学者コミュニティからの主体的な 寄与が十分に行われる体制の確立
提言5 科学者コミュニティによる大型計画の長期的検討体制の構築
提言6 学術の大型計画の推進を通した、多様な関心と能力を持つ人材の育成と教育 体制の確立

 この真摯な取り組みには満腔の敬意を表します。提言は是非とも実現していただきたいがが、いかにも古臭いにおいがするのが問題です。時代の変わり目なのですから、従来の既得権にとらわれた官製・慣性の法則を打破しなくてはならないのに、まったく残きに堪えません。本当の知性は、既得権を飛び越え未来を洞察するものです。もし、日本学術会議が現在ある情報を精密に整理し、その方向性を示すだけなら、それは知性ではなく、単なる事務能力を示しているに過ぎません。

んー、6つの提言を読んでも今一つピンと来ませんでした。要するに「今までは国が示した研究指針に従ってたから箱物ばっか作ってフラフラしてきたけど、これからは自分たちでも大型研究指針ってやつを立ち上げるようにしてやんぜ。箱物にとらわれない大型研究をやるつもりだから応援ヨロシク」ってこと?
今まで国の研究指針に迎合してきたのは、大型研究資金が国経由しか下りてこなかったからでしょう。国が発表した指針に入ってるキーワードを、いかに絡めて研究計画書を書けるか。それが予算ゲッター(またの名を「ブイブイ言わす研究者」)の見せ所だったはずです。学術会議が、いかに「これからは科学者コミュニティの主体的、ボトムアップ的な大型研究を目指す」と鼻息荒く宣言しても、予算の出所の意向や世間のニーズを加味しないと研究予算がゲットできません*1。そこをどうするかを宮田さんが聞き出してくれることを楽しみにしてます。
もう一つ気になるのが「多様な関心と能力を持つ人材の育成と教育 体制の確立」です。研究コミュニティでは、1つの研究テーマを深く愚直にまで掘り進めるタイプの研究者が評価される風潮があります。そんな研究者の周りには「多彩な関心と能力を持つ」スタッフが必須ですが、多様な能力を持ったオールラウンダーが研究の現場にそぐうとは思えません。NHKのドキュメンタリーで体内時計遺伝子の上田先生が紹介された際に、上田研の多彩なスタッフが紹介されていましたが、個々人は各々の専門分野のプロフェッショナルでした。そりゃ異分野の研究者たちと日夜作業を進めるなら「多様な関心」はあった方がベターでしょうが、研究者としての能力は「専門分野+おまけ」が精一杯だと思います。多様な分野それぞれで専門家レベルまで掘り下げられるのは、ごく一部の天才だけですよ。天賦の才は、育成したり教育できるものではありません。

*1:世の中には世間のニーズがあっても予算がつかない研究テーマだって五万とありますが