光はなくても愛はある


ショウジョウバエを56年間1300世代以上にわたって暗闇で飼育することで、京都大学が進化の謎の解明に挑んでいる。ハエは今のところ、外見の変化はほとんど見られない。しかし、求愛行動に変化が起きていることがわかってきた。 (中略)

 暗黒ショウジョウバエは目もそのままで光を感じる能力を失っていないが、よく観察すると、「感覚毛」と呼ばれる体毛が1割ほど伸び、生殖行動に変化が見られたという。

 ショウジョウバエのオスは、メスに出会ってメスの性フェロモンを受け止めると、羽をふるわせて求愛ソングを歌う。メスは何度も拒絶することがあるが、それを乗り越えたオスが交尾にいたる。普通のショウジョウバエはこの求愛行動に20分間程度かけるのに、暗黒ショウジョウバエは出会いから交尾までの時間がわずか約3分間だった。

 なぜ求愛行動の変化を起こしたのかは「まったくの謎」という。布施直之研究員らはその謎を解き明かそうと、フェロモンの合成やそれを受け止める仕組みにかかわる遺伝子の変化などを調べている。

1300世代以上も光のない世界で生殖しているのに、全身の感覚毛が約一割伸びてるだけとは驚きました。ヒトで考えると、1世代20年として、20年/世代×1300世代=26,000年ですよ。「26,000年前から地底で暮らす謎のヒトの種族がいたら」って想像すると、目は退化してそうだし、手探りで生活しそうだから四足歩行になってそうだし・・・それが逆に、暗黒ショウジョウバエの変化は感覚毛だけというのは意外です。まぁ、DNAに変化をもたらす紫外線は届かないですし、56年前に暗黒飼育箱に入れられた祖先は純系wild typeでしょうから、そもそも突然変異が起きにくいということが考えられます。
そんな暗黒ショウジョウバエも、パッと見た目では分からない部分で変化があると思います。例えば、従来の日周活動が光刺激なしでズレまくり、他の刺激で左右されているとか。そういう「一目ではわからない変化」を調査した結果の一つが、この記事の求愛行動なんでしょう。感覚毛が長い個体の方が交尾のチャンスに目ざとく生殖活動の勝ち組だと仮定したら、メスの存在に早く気づいたオスの方が感覚毛が発達してて生き残りに有利な個体だと言えますから、わざわざ20分も求愛ソングを聞かなくてもいいのかもしれません。全部想像で書いてますが、こういう話に思いを馳せるのが科学ロマンってものです。