収入と幸福の間

High income improves evaluation of life but not emotional well-being. Kahneman D and Deaton A. PNAS. Epub online September 7, 2010
少し前に話題になった「幸福と年収の関係は一定額で頭打ち」研究の論文です。
アブストの最終文章を抜粋すると

Emotional well-being also rises with log income, but there is no further progress beyond an annual income of ~$75,000. Low income exacerbates the emotional pain associated with such misfortunes as divorce, ill health, and being alone. We conclude that high income buys life satisfaction but not happiness, and that low income is associated both with low life evaluation and low emotional well-being.

「高年収だと生活の満足度は変えても幸福までは買えない。他方で、低収入だと、離婚・病気・孤独といった不幸を悪化させ、人生に対する評価が低くなっていく」だそうです。まぁ妥当な結論ではあります。
問題は、このアメリカでの研究結果が日本で適応できるか?です。論文中には「アメリカ人の約85%は幸福で前向きな生活を送っている(よく笑い、日々を楽しむ)。これは世界150カ国でのギャロップ社の結果からすると、北欧・カナダ・オランダ・スイス・ニュージーランドに続いて第9位である」とあります。つまり、基本的に大らかで前向きなアメリカ人を対象にした研究だということです。悲観的な日本人気質とは、全然違うぜ・・・
次に、この論文のキーポイントである「年収$75,000で幸福感は頭打ち」という金額です。アメリカの2008年の世帯平均年収は$71,500、中央値は$52,000と本文中に言及があります。年収$75,000ってのは、上位1/3ぐらいが該当するとのこと。その水準を日本の年収に当てはめるため、総務省統計局家計調査の「年間収入五分位階級別家計収支(総世帯のうち勤労者世帯)−平成21年−」を見てみました。勤労世帯の平均年収は464万円、上位1/3に相当するのは、年収550万円くらいでしょうか。今の為替レートで計算すると、$75,000÷83円/$=903万円ですから、年収の水準が日米で全然異なっていることがわかります。つまり、幸福感の尺度も年収水準も違うアメリカの研究結果を、日本に当てはめようっていうのが無理なんですねー。
とはいえ、この論文には色々と面白いことが書いてありました。アメリカの年収と大卒か否かは相関していない、とか。幸福感と負の相関を示したのは、孤独(-7.13)>頭痛(-4.45)>不健康(-1.36)>喫煙(-1.01)>介護(-0.49)とか。平均以上の収入を手にするってのは、幸福感への必要最低条件かもしれませんが、それ以外にも色んな要因があります。人生いろいろ。