市販の遺伝子テストは何のため?


市販の消費者向けゲノム検査・Navigenics Health Compassを受けた人を追跡調査したところ、心理・食事・運動・検診受診への測定可能な影響は認められませんでした。
オリジナル論文→Effect of Direct-to-Consumer Genomewide Profiling to Assess Disease Risk. Bloss CS, Schork NJ, and Topol EJ. New England Journal of Medicine. 2011. Epub online January 12. ザッと論文を斜め読みすると、Navigenics社の全ゲノム遺伝子テストを受けた3416人のうち、何割くらいが結果を見て心理的・生活的に変化を受けたか?を調べた研究でした。上の引用記事にあるように、結果はほとんど変化なし。とはいえ、この調査は遺伝子テストの結果を見てから3ヵ月後に行われたものですから、実際に検診を受けるのは更に後かもしれません*1
この記事を読むと「じゃ遺伝子テストなんて受けても無駄じゃん」と思ってしまいます。実際に論文のDiscussionにも「本研究を見る限り、遺伝子検査を実施するのはヘルスケア資源の無駄かもしれない」とまで書かれてますw とはいえ、そうとも言い切れない可能性も多々あります。まず、3ヵ月後の調査を実施しなかった人たちが全体の44%もいること。これは、遺伝子テストの結果が本当に悪かった人たちは、アンケートに答えるより実際の病院にかかりきりになってるのかもしれません。3ヵ月後の調査にキチンと答えたのは、遺伝子テストの結果が比較的良好な人たちなのかもしれませんから、テスト結果を見て心理的ショックも受けないし、生活習慣を変える必要性を感じなかった可能性もあります。後は、研究に参加した人たちの平均像が「年齢46歳前後、大多数が大卒以上、2/3が白人、収入も平均以上」というものでしたから、元々の生活習慣が悪くなかったかもしれません。
そもそも、このような研究がどうして実施されたか?という原点として「遺伝子テストが市販で乱立すると、安易にテストを受けて心理的ショックを受ける可能性が高い。また、誤って『低リスク』という結果を見て、安心して不健康な生活を続けたりするかも」という懸念があります。その結果FDAが市販の遺伝子テストを規制する方向に動いているのですから、本研究とそのフォローアップによって、米政府の規制、ひいては世界の遺伝子テストの方針が左右される可能性が大きいです。さて、12ヵ月後の調査はどう出るかな?

*1:この研究は、遺伝子検査の3・12ヵ月後に調査するデザイン