IQ<<<<<幼児教育


研究者たちは広範な調査結果を引用しているが、最も印象的なものは、幼児教育の長期的な影響を追跡した調査だ。例えば『Perry Preschool Project』は、ミシガン州イプシランティにおいて、低所得層のアフリカ系米国人の子ども123名(最初のIQスコアは、全員が75から85)を対象に行なわれた調査だ。子どもたちが3歳のとき、実験群と対照群とに無作為に分け、前者には質の高い就学前教育を受けさせ、対照群には就学前教育を受けさせなかった。その後、被験者たちを数十年にわたって追跡し、直近では彼らが40歳のときに、両群の比較分析を行なっている。

成人した被験者を比較した結果、就学前教育を受けた群は、受けなかった群に比べて、高卒資格を持つ人の割合が20%高く、5回以上の逮捕歴を持つ人の割合が19%低かった。離婚率も低く、生活保護等に頼る率も低かった。[Perry Preschool Projectに関する日本語の文献はこちら(PDF)。「月収2000ドルを超える者の割合は実験群が対照群の4倍で、家を購入した者も実験群が3倍高かった」という]

興味深いのは、この実験が「IQスコアの向上」に長期的な効果をもたらしたわけではないことだ。就学前教育を受けた子どもたちは、最初のうちは一般知能の向上を示したが、この傾向は小学2年生までに消失した。代わりに就学前教育は、さまざまな「非認知的」能力、例えば自制心や粘り強さ、気概などの特性を伸ばすのに効果があったとみられる。

われわれの社会は「頭の良さ」に価値を置く傾向が強いが、冒頭の論文を執筆したHeckman氏とCunha氏は、こういった「非認知的」な能力こそが重要であることが多いと論じる。彼らは、信頼できる人間性こそ雇用者が最も評価する特性であり、「粘り強さや信頼性、首尾一貫性は、学校の成績を予測する上で最も重要な因子」だと指摘する。

4週間ほど前に5つ子の魂百までというエントリで、ニュージーランドにおける幼児の自制心と成人後の成功に関する研究を紹介しました。上の記事はアメリカでの研究ですが、どちらも似たような結論を導き出してます。すなわち、幼児期の「非認知的」能力(自制心、粘り強さ、気概)が、成人後の適応性や社会的成功に関連しているということです。本試験は無作為割付ですので、関連性だけでなく因果関係*1もアリなんでしょうねぇ・・・ なんかちょっと凹みました。人生の成功の大部分は就学以前の「しつけ」に左右されるとなると、教育機会の平等より、産まれてきた家庭や親の育児方針の方が影響力が高いってことですよね。それって貧富の固定化そのものじゃないかと危惧します。ここ最近の育児方針は幼児英才教育や英語教育らしいですが、そのうち「幼稚園は自制心や粘り強さをしっかり植えつけるところじゃないと!」って世の中になるんでしょうね。それはそれで、嫌だなぁ。子どもが子どもらしくいられる期間がゼロになっちゃうじゃんか。

*1:朝ご飯を食べる子どもは成績がいい、というのは関連性しか分からない