幻覚と痛みの複雑な関係


英国・ノッティンガム大学のRoger Newport博士らがRheumatology 2011年3月29日オンライン版に発表した研究で、変形性関節炎の痛みがコンピュータを利用した画像処理による錯覚によって減少することが明らかになりました。

博士らは、ノッティンガム大学で開発したMIRAGEという名称の画像データをリアルタイムでコンピュータを使って加工し、錯覚を生じさせる機器(例えば両手を差し入れるとビデオカメラが手を映しだし、その手は本人の意志で自由に動かせますが、さらに大きくしたり縮ませたり変形させたりがプログラムによって自由にでき、そのデフォルメされた自分の手を画面で見ながら遊べるという機能を持つ)のデモンストレーションをオープンキャンパスで行いました。

自分の手がデフォルメされ、錯覚が生じて面白いので子供たちが殺到していましたが、偶然、変形性関節炎のお年寄りが孫と一緒に機器を使った後で慢性的に苦しんでいた手の痛みがなくなった、このマシーンが欲しいとスタッフに詰め寄るという事件が起きました。

オリジナル論文→Analgesic effects of multisensory illusions in osteoarthritis. Preston C, and Newport R. Rheumatology. Epub online March 29, 2011
孫に混じってコンピュータゲームしてるオジジを想像して、なごなご。・・・じゃなくて、これは面白い研究ですね。幻肢痛の治療には鏡療法というのは聞いたことがあるのですが、リューマチの慢性痛がコンピュータグラフィックで軽減されるとは。論文自体は読めないのですが、Abstractその他を総合すると、変形性関節症で手を患っている長期患者20人に、MIRAGEというリアルタイム画像装置を使わせたところ、85%の患者において、幹部が映し出されると痛みが45〜50%軽減したそうです。全患者の1/3は痛みがゼロになったとか。すげぇ。患部ではな部分や手全体を映し出すと痛みの軽減はなかったことから、リアルタイム画像を見たことによって気がまぎれたのではなく、患部の痛みが実際に軽減していると言えそうです。本研究はN数も小さくコントロール群もないですから、更なる追試研究が必要ですが、ともあれ人間の感覚の不思議さを再認識しました。