すごい技術より枯れた技術を使え
いろんな商品を開発する時というのは、最先端技術を振り回して、すごい商品づくりをしようとしたのではありません。非常にありふれたもの、例えば先程の「ゲーム・アンド・ウオッチ」は電卓が基本になっています。かつては40数万円もした電卓が、ポケットに入るような大きさで数千円まで下がったからこそ、この「ゲーム・アンド・ウオッチ」というものが出現したわけです。
つまり電卓をそのまま垂直思考したのでは、電卓のままですが、そこまでこなれて枯れた電卓技術を水平思考して、ゲームというものに置き換えたからこそ「ゲーム・アンド・ウオッチ」がヒットしたのではないか。「ゲームボーイ」も同じことが言えるわけです。液晶技術が非常に枯れてきた。枯れた原因はやはり液晶テレビに散々使われたことで、値段が非常に安くなってきた。だから、この「ゲームボーイ」が1万円を切るような値段で発売できた。それがヒットにつながったということです。
技術者というのは、得てして新しい技術に飛びつき、それをなんとか使ってすごいことをやろうとする。私は任天堂時代に、部下には絶対にそれをさせませんでした。私が部下に対して常に言ったのは「すごい商品を作るな。売れる商品を作れ」ということです。特に学校を卒業して、バリバリの新入社員で入ってきた技術者は、学校で習ったすごい技術を使って、すごいことをやろうということに燃えています。ところが、そんなものはとてつもなく高いものになってしまって、およそ営業には結びつかないような商品を作ってしまう。このように枯れた技術を使うというのが私の哲学です。いままでそれをやってきたために、いろんなヒット商品に結びついたのではないかと思います。
長文メモ。元・任天堂株式会社開発部長の横井さんの講演から。新規のすごい技術を使っても高価になってヒット商品には結びつかない。むしろ枯れて安価になった技術を使って新しい商品を作れ、と。それができるのが真のイノベーターかもしれない(だからこそ誰でもできることじゃない)。