ホタルビジネスが日本のホタルを滅ぼす?

 東京でも今年はずいぶんいろんな場所でホタルが放たれた。表には見えないが、その背景には、ホタルを商いする業者がいるのだ。(中略)「夏になるとな、ホタル欲しいというお客さんが多いんや、頼まれれば、獲りに行くしかしゃーないやん、はっきり言いたあないけど、源氏(ボタル)で1匹150から200円するんとちゃう」
 戦前まで繁盛したという「蛍問屋」(滋賀県守山市が有名。戦前まで100軒を超すホタルの問屋が軒を並べていた)をほうふつさせる話だ。需要は年々高まる一方という。
 「自然とか環境とか、今しは流行だもんで、とにかくホタルは人気が出てきたな、源氏が一番光が強いから人気やけど、光れば、平家(ボタル)でもいいんとちゃう」

ホタルの光り方がヘン、と気づいた。すぐに、生態が異なる地域から移入されたホタルだな、と判った(後に熊本県K村のホタルと判明)。ここは、福島県会津村(現会津若松市)「ホタルの里」。毎年、6月半ばから7月上旬にかけて源氏ボタルの飛翔が見られる。
 どこがヘンかといえば、西日本と東日本で光り方に大きな違いがある。西の源氏ボタルは2秒間隔で明滅を繰り返すが、東日本では4秒と長い。生態の違いはないが、「方言」(大場信義)、あるいは「温度差」(阿部宣男)で光り方が異なる。ホタルの撮影をしてきた筆者も、そうしたホタル学者の説をファインダー越しに確認している。(中略)
 ちかごろ、ホタルの世界に、もう1つ、気がかりなことが起こっている。コモチカワツボというニュージーランド産の巻貝(体長5ミリ)が全国的に増えているというのだ。きわめて繁殖力が強く、干からびた土の上でも2年は生きる、という研究者の報告もある。輸入された魚や農産物が原因ではないかといわれているが、決定的な渡来ルートは判然としない。
 「この貝で育ったホタルは光が非常に弱い、雌雄がコミュニケーションをするために発光するわけですから、光が弱ければ交尾に至らない、コモチカワツボは、あっという間に生息地を席巻してしまいますから、ホタルさんはいなくなります。コモチカワツボの根絶は、まず、不可能でしょう」

旅館やイベントなどで放たれるホタルが、実は日本のホタルを危機に陥れてるかもしれない、という話です。とにかく欲しい、という需要があったら「源氏でも平家でもええんちゃう」と数をそろえる供給あり。そうすると、本来その地域と違う種類、違う光り方をするホタルが環境に紛れ込むことになります。
無茶をする業者がもたらすもう一つの危機、それはホタルの幼虫が餌にするカワニナが不足すると、遠方からでもカワニナを持ってきますが、そのときに1匹でも外来種コモチカワツボが紛れ込んでいるとアウト。コモチカワツボを食べたホタルは光が弱く交尾ができないので、ホタルがいなくなってしまうという恐ろしい話です。
ホタルの生態飼育・研究の第一人者、阿部宣男さんは「ホタルの光と人の感性について―感性情報計測と福祉応用」という博士論文を書いた実績があります。その安倍さんによると、イベントで放されるようなホタルの光り方は、緊張した時に出すβ波だそうです。本来の自然の環境で見るホタルの光り方には癒し効果があるけれど、β波を見ても癒さないそうで・・・とすると、イベント開催側は、癒し効果のないβ波を放つホタルに1匹2〜300円も払ってることになります。恐ろしい。