圧倒的な速さの「iPS敗北」

2007年のヒトiPS細胞樹立から始まったわが国の挙げてのiPS細胞研究支援体制にも、もうすでに綻びが生じてきました。

 09年3月31日に、新エネルギー・産業技術総合開発機構NEDO)がiPS細胞等幹細胞産業応用促進基盤技術開発プロジェクトの採択結果を公表したが、iPS細胞開発の元祖である京都大学のグループが提案していたiPS細胞の標準化と一般頒布のための基盤技術開発が落選、代わってNEDOと同じく経産省の影響下にある産業技術総合研究所東京大学など7機関の共同提案と東京大学の単独提案が採択されました。関係者一堂、あぜんとし、苦笑を漏らすしかなかったのです。
https://app3.infoc.nedo.go.jp/informations/koubo/koubo/EK/nedokoubo.2009-03-27.5203534057/

 発表された結果を見る限り、5年間で総事業費55億円も突っ込む大プロジェクトは迷走しているかの如く見えます。「オールジャパンというのは、文科省傘下の機関のオールジャパンの協力体制というのが実体なのか」と嘆息すら聞こえてきます。NEDOには充分な説明を求めたい。

少し前のものですが、Biotech Japanウェブマスター宮田さんの記事を引用します。久々の日本発のメガヒット研究であるiPS細胞ですが、元祖である京大・山中研がNEDOプロジェクトから落選し東大が採用されたそうです。そら「関係者一同、あぜんとし、苦笑を漏らす」しかないでしょう。この記事を読んだ自分も全く同じ反応しかできません。
オールジャパン体制でiPS細胞研究を推進していく、というのは、予算を動かす官僚にとって都合のいい錦の御旗なのでしょう。そうこうしてるうちに世界中のトップラボがiPS細胞研究を猛然と追撃しています。
遺伝子使わずiPS細胞 米独チーム、がん化リスク低減
日本国内が研究予算の配分で揉めてるうちにオイシイところは全部海外のラボにもっていかれる構図が見えてきました。どっかで同じものを見たデジャヴュ感…そう、DNAシークエンサーで日本の和田先生が画期的な技術を開発したのに、官僚が足を引っ張っているうちに海外にパテントを持っていかれた『ゲノム敗北』です。あれから何十年と経ってるのに同じことを繰り返すなんて、やはり日本は基礎研究の実を結ばせるのが困難な国のままなんですね。悲しいことですが。