等価交換
オリジナル論文→Pronuclear transfer in human embryos to prevent transmission of mitochondrial DNA disease. Craven L et al. Nature. 2010 Apr 14. Epub ahead of print
研究チームは今回、不妊治療で余った卵子を利用し、異常のあるミトコンドリアDNAを正常なミトコンドリアDNAと置き換えられるかどうかを試した。実験では、培養皿上で受精後6〜8日が経過し、分割が進んだ「胚盤胞」と呼ばれる状態の受精卵を用いた。受精直後の卵は3種類のDNAを持つ。父親の精子から受け継いだ核DNAと、母親から受け継いだ核DNA、さらに母親から受け継いだミトコンドリアDNAだ。
研究チームでは母親の卵子を使った受精卵から、2種類の核DNAを取り出した。一方で、ドナー女性の卵子を使った受精卵からも2つの核DNAを取り除き、正常なミトコンドリアDNAだけの状態にして、ここに母親の受精卵から取り出した2種類の核DNAを入れた。
父親からの核DNA、母親からの核DNA、母親でない別の女性からのミトコンドリアDNAを獲得した受精卵に残る母親のミトコンドリアDNAは2%程度にとどまり、母系の遺伝子変異が受け継がれるリスクを大幅に減らすことができるという。
突然変異型ミトコンドリアを持つ人は約250人に1人と少なくはないですが、細胞内の全ミトコンドリアの60%以上が突然変異型だと、ミトコンドリア病を発生するそうです。逆に言えば、ミトコンドリア病を克服するには、突然変異を持つミトコンドリアを排除するか、正常なミトコンドリアを増やすしかありません。
この研究チームは、ミトコンドリア異常がある受精卵(ドナー)から父母DNAを取り出し、ミトコンドリアDNA以外を排除した正常な受精卵に移植して育成状況を調べたそうです。調査の結果、ドナー側の突然変異型ミトコンドリアは2%だそうですから、結果は大成功。ですが・・・この手法を臨床ベースの治療に用いるには、治療数と同等以上の受精卵が必要になります。いかに不妊治療で「余った」卵子*1があろうと、それって治療法の素として捏ね繰りまわしていいのか・・・? 生命倫理上、許されないと思います。実用化には高いハードルがありますね。