スーパー細菌はパキスタンから?


 AFP通信によると、死亡したベルギー人はパキスタンを旅行中、自動車事故に遭い、同国の病院からブリュッセルの病院に移送されたが、すでに新型耐性菌に感染していたという。

 新型耐性菌は「NDM1」という新しく確認された遺伝子を持ち、抗生物質への耐性が著しく高く、「スーパー細菌」の俗称がついている。感染すると敗血症などを起こし、致死率も高い。ランセット誌は、英国で37人の感染者が確認されたとし、AP通信によれば、オランダ、スウェーデン、米国、オーストラリアなどでも感染が確認されている。

 同誌は、感染経路について特に、「インドには、欧州や米国から美容整形を受けに行く人が多い」と言及している。

オリジナル論文→Emergence of a new antibiotic resistance mechanism in India, Pakistan, and the UK: a molecular, biological, and epidemiological study. Kumarasamy KK et al. The Lancet Infectious Diseases. Epub online 11 August 2010.
学部の微生物学ゼミで「抗生物質が効かない細菌『スーパー細菌』が21世紀の社会問題になりうる。もしそうなったら、医療はペニシリン発見以前の原始的なものに逆戻りだから、抗生物質の乱用は絶対に避けるべきだ」という話を聞いたのを思い出しました。それから10年ちょいで、恐れてたことが現実になったようです。
そもそも抗生物質とは、細菌(バクテリア)に特有の細胞構造・機能を攻撃する薬物です。その中でカルバペネム系抗生物質は、細胞壁構築阻害作用があり、細胞壁*1をもつ細菌に有用で広く用いられています。そのカルバペネムを無効化する酵素が、NDM1です。引用記事にはNDM1が遺伝子って書いてあるけれど、正しくはblaNDM-1遺伝子のようですね。AFP通信英語版でもNDM1 geneと書かれてるので読売新聞のせいではありません。
英語版Wikipediaによると、2010年5月に英国で発見された患者は、18ヶ月前にインド旅行に出てたとありますから、2008年末の時点で既にインドでスーパー細菌が発生してたと考えられます。今回の記事は、NDM1による欧米での初の死亡例として注目を集めてますが、インド国内での病院での感染は、さらに前から起こっていたんでしょうね… ここまでくると世界規模での感染拡大は防ぎようもないかもしれません。下手に病院に行くとスーパー細菌に感染するリスクがあがる、と言えば、増大しつづける医療費が減るかも?!

*1:植物細胞の細胞壁とは異なる構造です