痛覚と嗅覚の意外な関連


 生まれつき痛みを感じない先天性無痛症の1つであるSCN9Aチャネル障害。この常染色体劣性遺伝病は,パキスタン北部の3血縁家系で確認され,電位依存性ナトリウム(Na)チャネルαサブユニット蛋白質(Nav1.7)をコードする遺伝子(SCN9A)の変異が原因で生じることが,James J. Cox氏らによって報告されている(Nature2006; 444: 894-898)。今回,このNav1.7 Naチャネルが正常な痛覚ばかりではなく,嗅覚にも必要であることがドイツ・ザールラント大学のJan Weiss氏らによってNature3月23日オンライン版に報告された。嗅覚障害の原因遺伝子の1つが明らかになるのは,初のことだという。
オリジナル論文→Loss-of-function mutations in sodium channel Na(v)1.7 cause anosmia. Weiss J, et al. Nature. Epub online 2011 Mar 23.
ヒトの痛覚障害の原因遺伝子が、嗅覚障害も引き起こすなんて、どうやって判明したんでしょうね。Naチャネルに関連するタンパク質なら、様々な感覚パスウェイに影響を及ぼしそうなものですが・・・ 嗅神経からNav1.7を取り除いたマウスでは、嗅覚を基にした行動・学習・回避行動が全く見られず、仔マウスの世話もできなかったそうです。痛覚と同等以上に、嗅覚不全は生き残りに致命的な欠陥なようですね。というか、ヒトでもSCN9A変異を有する家系が存続できること自体が、結構な驚きです。恐怖をまったく感じないという珍しい脳疾患と同じくらい、危険回避が難しそうなのに。